[125]第3話 隠れたメルヒェン


発行日:2008/07/14
タイトル:第3話 隠れたメルヒェン
シリーズ名:やさしい正座入門学
シリーズ番号:3

分類:電子書籍
販売形式:ダウンロード販売
ファイル形式:pdf
販売価格:100円

著者:そうな
イラスト:あんやす

販売サイト
https://seiza.booth.pm/items/3177698

本文

 人は度々、自分の近くにあるものを見失いがちである。
 先日、私がネットサーフィンをしていた時のことだ。何気なく座椅子のページを開いた私は、ただその画面を眺めていた。そこには「T」のような形であったり、空箱をひっくり返したりしたような低い椅子の写真が掲載されていた。暫く「低いな・・・・・・こんな椅子もあるんだな」と、しげしげ眺めていたが、ふと窓辺に目をやった私はあるものに気がついた。

《カーペットの上に置かれたキノコ》

勿論、それは食べ物ではない。そんな生モノをそこら辺に放って置く家庭は嫌である。そこにあったのは、ピンクの可愛らしい色をした、キノコの形の椅子だった。
キノコの座椅子 思い起こせば、そのキノコは、ずいぶん前に私が母にプレゼントしたものだった。母は、日頃からアイロンがけなどの家事を正座でする人で、毎回立ちあがる時に「よいしょ」と言いながら膝を《パキッ》と鳴らしていた。それを見ていた私は、「椅子でもなく床でもなく、丁度中間の低く座れる椅子はないかな」と思ったものだ。そして後に、偶然ファンシーな店でそのキノコの椅子を見つけ、プレゼントした。そう、家のカラーに全くそぐわない、メルヒェンなピンク色のキノコを。
 そういえば、そのキノコも「T」の形をしている。今まで気がつかなかったのだが、それはまるで座椅子ではないか。いや、言わずもがな座椅子なのである。

 人は自分の足元こそなかなか見えないという言葉を聞いたことがあるが、まさにその通りである。これは盲目だった。今まで、いわゆる「座椅子」とはどんなものだろうと思っていたのだが、まさかこんなに身近にあったとは。そのTをしばらく眺めていると、それに座ったことのない私はとりあえず座ってみたくなった。すると……なんと……座椅子であった!!分かっていた、分かっていたはずなのだが、座ってみると新たな感激を覚えたのだ。想像と体験は全く違うのだ。考えても見てほしい。さっきまでインターネットで見ていたものが、ここに……

「もう、座椅子の上で踊りまくったね」

 そんなことはさておき、座椅子というやつは実に座りやすい。なんと言うか、自分の正座を上手くサポートしてくれるのだ。確かに、これなら痺れにくくもなるだろう。この形状によって上手く血管を護ってくれている気もする。これなら、痺れや足の痛みを気にせず、気軽に正座ができるというものだ。家などで、シビれを気にせずに単に正座をしたいなら、これが便利だと私は思う。
 某テレビ番組でも放送していたが、どうやら正座は人にとって楽な姿勢であるようだ。ならば、このキノコ(座椅子)こそ、気軽に正座の形ができる最高のパートナーではないだろうか。


 うーむ、「灯台下暗し」……。このキノコに限らず、人はしばしば自分の近くにあるものより、遠くのものばかりを眺めてしまうものなのであろう。しかし、それが悪いかどうかというとまた別の問題であり、むしろそれに気づけた人は幸福だと思う。
 人生において、気づきはとても大切である。それがどんなに小さな事であれ。改めてこのキノコについて考えた私は、なんだか今まで以上に不思議な親しみを感じた。そんな大活躍のメルヒェンなキノコは、今日も母の尻に敷かれている。
キノコの座椅子に座っている写真(母)

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