第2回 正座でお・も・て・な・し

掲載日2013/12/12
著者あすら
 あなたは普段、来客があった時、どのようなおもてなしをされるだろうか。椅子での生活が中心となっている現代では、なかなか正座でお客様をもてなす機会は少ない。だからこそ、旅館に泊まりにいった際に、女中さんに正座でおもてなしをされると、新鮮な気分になる。少なくとも私は、「ほら、旅館にきてるよ!」と世の中の皆様に向けて心の中で叫びたくなる。
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 正座でもてなされるのは大そう気持ちがいいものだ。客間で、膝の前に手を合わせて深くお辞儀をする。そんな女性の姿は、とても美しい。だが、その一方で、正座でもてなす側には大変な苦労があることを知っておこう。最初に言っておく。正座で接客すると、まず疲れる。でも、正座が与える良い印象に比べれば、その疲れも惜しくはない。私は仕事上、来客者の前で正座をする機会が多い。たとえ相手が立っていても、相手が外に居ても、出来るだけ正座をするように心がけている。時々、お客様の前でごく短時間の応対をする場合には、膝をついて接客することもある。
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 正座のいいところは、しゃがむことで目線が相手より低くなり、お客様に対して圧迫感がなくなる点だ。また、自然と背筋がしゃんと伸びて美しい姿に見える。よく居酒屋で目にする接客の姿勢で「ダウンサービス」とよばれるものがあるのはご存知だろうか。注文を頼もうと店員さんを呼んだ際、店員さんが片膝をたててしゃがみメモをとる、あの姿勢を思い出してほしい。それが、「ダウンサービス」だ。これも、正座と共通したおもてなしのかたちである。
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 ちなみに、ジーンズを履いている日の接客は辛いものがある。事前に来客があると分かっているときは、私は出来るだけジーンズではなく、ゆるめの服を着るようにしている。万一、きついジーンズを履いている日に、急な来客があったときは大変だ。血流が見事に膝裏で食い止められ、足のしびれを感じて、もじもじせずにはいられない。終いには、お客様との会話は上の空になり、頭は「しびれた」の感覚でいっぱいになる。「早く帰っていただけないかな…」などと失礼なことまで考えたりもする。もてなす態度として失格だ。さらに言うと、お客様をお見送りする際も気が抜けない。居間から退出する際に、すかさず玄関もしくは縁側に着座してしまえば、しびれているだらしない姿をお客様に見せずに済むのだが、しびれているときに急に立ち上がると、無意識に足元がもたついてしまう。しびれが頂点に達し、足先の感覚が完全になくなっている際には、足首がねじれているのに気付かず、一歩踏み出すことだってある。こうなるとお客様にもぎょっとされる。
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 そして、私はある日、ついに「痺れないおもてなし」の方法を発見した。ごく単純なことなのだが、接客中、わざと何かものを取りに行くのだ。「そうそう。そういえば、見せたいものがあるんですよ。」感覚的に「そろそろ足がしびれたかな?」と思うと、一旦席を外すようにする。そうすることで、足がしびれた姿を見せることなく、スマートな「おもてなし」が出来るのだ。いつ来客があるか分からない、そんなときに備えて『お客様に見せたい物リスト』を常に揃えておくと何かと便利である。