掲載日:2014/02/08

正座ができる人

第4回 客間に通された人

著者あすら

通された客間が、もし和室だったら、あなたはどう座るだろうか。私は着物のレンタル屋で働いている。そのため、お客様が来店された際は、一度客間に通して受付を担当している。そんな日頃のごく自然な流れの中でも、注意深く見ると発見が多いことに最近ようやく気付いた。

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「こちらにお座りください。」そう案内されて腰を下ろすお客様の座り方で一番多いのはもちろん正座だ。たいていの人は和室=正座という概念があるのだろう、きちんと正座で座って説明を聞く。ところが、正座以外の人も意外と多い。例えば、女性に圧倒的な人気を誇るのが、べたっと座る横座り、別名「お姉さん座り」である。机から見える上半身だけ見れば、一見正座しているように見えなくもないのだが、客間に招かれて、ごく当然のように横座りするのはいかがなものかと思う。「どうぞ足を崩してください」の一言があって、はじめて足を崩すのが常識ではないだろうか、と思ったりもする。

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考えてみれば、私もOL生活をしていたときは、正座をする機会など滅多になかった。だが時々、人様のお宅や旅館・料亭などで和室の客間に通されたときは、何の躊躇もなく正座をして座ったものだ。ひょっとすると今の人たちは“和室=正座”という概念さえないのかもしれない。

さて、女性には横座りが多い一方で、男性に多い座り方は何であろうか。ずばり、圧倒的にあぐらが大多数を占める。あぐらというのは、正座以前に“正しい座り方”として日本人に浸透していたと聞くが、そのせいか男性があぐらをかいても、そこまで悪い気はしない。だが、あぐらにも様々な座り方があるのを感じてほしい。例えば、同じあぐらでも、背筋を伸ばしたあぐらと、背中を丸めたあぐらでは印象も大きく異なる。

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背筋を伸ばしたあぐらといえば、大河ドラマなどでもよく見かけるキリっとした座り方で、座禅などもこうしたあぐらの姿勢が主である。私が接客する中で、こうした美しいあぐらができる人は、残念なことにほぼいない。大抵の人は、どかっと腰を下ろして、背中を丸めて頭を前に出し、両腕を太ももの上に雑に乗っけて、「はい、あー、あい」と適当な返事をする。「この姿勢、どこかで見たことがあるなぁ」と思いながら接客するのだが、この前ついに発見した。そう、歴史の教科書に載っていた石器時代、焚火の横に集まって座る古代人の姿に近いのだ。

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私が接客する中で、驚いた座り方は他にもある。ずばり、近くにあった1つしかない椅子に無理やり座る人。椅子に座れば、一緒にきた正座している友人よりも、当然視線が頭2つ分くらい高くなるのだが、それでも椅子に座りたがる人がいる。もちろん、外国人や足腰の悪そうなご老人にはこちらから椅子を勧めているが、驚くべきは、そういった“椅子に執着する人”がまだ10代・20代と思わしき若者だとういうことだ。そして、さらに驚くのが、家族で来た場合、親が子供に椅子に座ることを勧めることがあるということだ。ちなみに、以前にかなりふくよかな体格の女性が来客し、「座る」行為を一切拒否して、ずっと立っていたことがあった。最初はなぜ彼女が座らないのか疑問に思ったが、しばらくしてから、彼女がふくよかすぎるため、椅子に座ったりしゃがむ行為が出来ないのだと気づいた。「ふくよかなのだから、しょうがない」の一言で済ませることも出来るが、それならば、せめて座らないことについて簡単にでも断わりをいれてほしいものだと感じた。もはや“客間に通されたときの振る舞い”が軽視されつつあるようだ。

さて。私の勤めている店は着物のレンタル店ということもあって、日本文化を体験したいという外国人のお客様も多いのだが、欧米系の外国人で正座をする人は滅多にいない。そんな中でも台湾人や一部アジア圏のお客様はきちんと正座をする人が多い。台湾に正座の文化はないと聞くし、きっと日本の文化をあらかじめ習得してきてくれたのだろうと思うと、接客する側としても非常に気持ちがいい。そこで思うのだが、客間に通された日本人と外国人。どちらが美しい座り方をしているだろうか?残念ながら、圧倒的に外国人の勝ちだと思う。外国人の座り方は、一見床に座ることに不慣れな印象を受けるが、緊張しているのか姿勢や振る舞いがきれいである。何より“客間にいること”を慎重に受け入れているように感じるのだ。一方、日本人はたとえ正座をしていても緊張感がなく背中が丸い。

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これを機に、もう一度、客間に通されることの重要性を改めて感じてみてほしい。相手にもてなされているという好意を感じるだけで、自然に背筋が伸びて、今すぐにでも正座したくなるのではないだろうか。年末年始、お世話になっている人や友人の家におもてなしされたとき、客間で気持ちの良い振る舞いができるはずだ。