掲載日:2014/04/13

とりあえず座れ

第8回 引っ越しと和室再考

著者かねしろさく
イラスト林 加奈子

先日、はじめてひとりで引っ越しをした。子供の頃から転勤族の両親といっしょに数えきれないほど引っ越しをしてきたけど、準備から何からひとりでやったのは今回がはじめてのことである。

たくさんの引っ越し業者に見積もりを出し、公共料金の手続き、粗大ごみの申し込み、荷造り……引っ越し前の数日間は目も回るほどの慌ただしさだった。とくに引っ越し前日は、ガスも電気も止まり、カーテンもないからっぽの部屋でジャンクフードをかじって過ごした。ちょっとした手違いで部屋を出る数日前に水道を止めてしまい、バスタブに貯めた水や買ってきたミネラルウォーターで生活するはめに。

しかも寝具はすでに新居へ送ってしまったし、朝に弱い私は早朝の引っ越し作業に備えて徹夜である。さらにちょっとした手違いから大きなテディベア(子供の頃もらった誕生日プレゼント)を梱包し忘れ、引っ越し当日に高さ八十センチはあるテディベアを抱えて電車に乗り、新居へ運ぶ羽目になった。

「な、なんでそんなに大変な引っ越し方を……?」

と友人らにはあきれられたけど、たぶん、舞い上がっていたのかもしれない。実家を出て、学校を卒業し、働くようになり、自分にできることがどんどん増えていくのが楽しい。今回の引っ越しもそれと同じで、何から何まで自分で手配して実行していくのが嬉しかったのだ。

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それになにより、今度の新居には和室がある。正座を取り入れた生活に一番よく似合うのはやはり和室だろう。こうして正座のコラムを書いている私にしてみれば、念願の和室!

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ベッドがあるので寝室は洋室、生活スペースは和室に。「旅館の一室みたいなインテリアにしたい」と思ったけど、家具が揃うのはたぶんまだまだ先だろう。まずは畳の部屋の雰囲気に合った間接照明を買う予定だ。


それにしても、和室のある部屋に住むのは何年振りだろう。

昔のファミリーマンションはかならずひとつは和室が設けられていた。しかし近頃は和室の需要も減り、全部屋洋室の住居も多い。住宅に関わる仕事をしている友人から話を聞くと、やはり近年和室のある家は減っているらしい。

また、熊本産の天然い草の生産量も減り、中国産のい草、あるいは樹脂を用いた畳のほうが一般的になりつつある。昔ながらの畳張りの和室は影を潜めているようだ。

しかしそれってなんだか寂しいじゃないか。和室には良いところがたくさんあるのに。


たとえば北欧風や南仏風といった西洋の住まいにも憧れるけど、やはりおうちにひとつ、和室があると気分が違う。

落ち着いた佇まいや暖かみもさることながら、その柔軟な用途も魅力のひとつだろう。普段寝室に使っていても、布団を片付けテーブルを置けば団欒スペースに。さらに間取りによってはふすまをなくし、居間と繋げて広く使うことができる。その懐の広さがすばらしい。

また、畳は板張りの床に比べ踏み心地がやわらかで、階下への防音にも効果的だ。それはアパートやマンションに和室を取り入れる利点といえる。それに、吸湿性にも優れている畳は、日本の気候に適した素材である。


和室における空間の粋は、見上げたときに実感する。これは前回、畳のある喫茶店へ行ったときにも感じたことだ。椅子に座ったときとはまた違う視点。ふと見上げたとき、特別高いわけではない天井にゆとりを感じた。

ふぅ、とひと息つきたくなるような、それは気負いのない余白だ。日々の忙しさに息を詰まらせていたときなんかはなおさら。ゆったりとした時間の流れを感じることができる。力を抜いていても背筋が伸びる、それは和室が持つイメージそのままの心持ちではないだろうか。

日本人ならおそらく誰にとっても思い出深い和室、その魅力をぜひ再考してみてもらいたい。

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