[423]母への想い


タイトル:母への想い
掲載日:2026/08/05

シリーズ名:白雲木シリーズ
シリーズ番号:7

著者:海道 遠

あらすじ:
 カグツチは自分を産んで捨てた、母のイザナミを憎むあまり火山の溶岩がますます熱くなり、噴き出させる毎日である。
 母を慕わしく思っている樹(たつる)とは真逆だ。
 樹は三柱の鳥居の石段の隙間から暗い空間を見つけ、奥へ進んでいく。
 美穏(みおん)の知らせで、樹が三柱の鳥居から消えたことを知った樹の両親の葵生(あおい)と波月(はづき)も、息子を探して地下路へ進入する。



本文

当作品を発行所から承諾を得ずに、無断で複写、複製することは禁止しています。

第一章 暗闇の通路へ

 火山の神カグツチは自分を産んで捨てた、母のイザナミを憎むあまり火山の溶岩がますます熱くなり、噴き出させる毎日である。
 母を慕わしく思っている樹(たつる)とは真逆だ。

 ある朝、三柱(みはしら)鳥居で昼寝していていると思っていた樹がいないことに、美穏(みおん)は気づいた。
「あれ? いつも通り、ここで寝転んで読書してると思ったのにどこへ行ったのかしら? んもう、私は会社へ行かなくちゃ遅刻するじゃないのっ」
 それでも放っておけない胸騒ぎを感じた美穏は、とりあえず、宮司の祖父上の書斎へ急いだ。

「ごめんください、美穏です。祖父上さま、いらっしゃいますか?」
 その頃、巫女の波月(はづき)は宮司の祖父上の書斎で、古書や書きかけの半紙や巻物が散乱した中に、葵生(あおい)が書いた紙きれの文章、
「三柱鳥居にはカグツチの怨みあり」
 という大きな半紙を見つけたところだった。
「これは……」
 そこへ、美穏が玄関で呼ばわる声がしたので、波月巫女が出てみた。
「美穏さん、どうかなさったんですか?」
「三柱鳥居で寝ていると思った樹の姿が見えないのです。祖父上さまが何かご存知かと思い、尋ねに来たのですが」
 祖父上とそろって玄関に出てきたのは、樹の父親の葵生(あおい)だ。
「樹がいないんですって?」
「葵生、待って。この書き物は何なの?」
 波月が先ほどの半紙を広げて見せる。
「それは後で説明するから、とりあえずボクも三柱鳥居へ行ってみる! 美穏さんは出勤してください!」
「そう? じゃあ、私はお言葉に甘えてここで離脱するわね。後はよろしくお願いします」
 美穏は小走りに駅前通りへの道を急いでいった。

「波月、行くぞ!」
 葵生が波月巫女の腕をつかんで、三柱鳥居へ急いだ。
 鳥居は周りの森の鳥の鳴き声に包まれて、静かにそびえている。
 葵生は土台周りを回ってみて、暗渠(あんきょ)のような地下路を発見する。
「ここにこんな大きな穴があったんだな。ゆっくり見たことがなかったから気づかなかったが……」
 うずくまって、穴に耳を当てたりした。
 ひゅうひゅうと風の音に混じって、熱風も混じっているのが感じられる。
(この熱風は――)
「この穴は、おそらく美濃国の地下のカグツチさまのところに通じているんだ」
 葵生は穴に入っていこうとする。
「私も行きます!」
 波月巫女が後に続いた。

第二章 カグツチの怒り

 葵生の持っていた小さな紙燭(しそく)に何回も火を灯し、どれだけ暗闇の穴を進んだか――。
 ようやく少し朱色に明るくなってきた。と共に熱くなってきた。
 いきなり、毛の生えた巨大なものが顔を出した。
「きゃあああっ」
 全身に朱色の毛皮を生やした巨体の炎虎(えんこ)が波月を素早くくわえて駆けていく。
「待て~~~っ、朱い毛むくじゃら妖獣!」
 葵生の怒鳴り声が反響する。

 あちこちの岩の割れ目から溶岩が見える。まるで熱地獄のような場所だ。
 波月は妖獣の主人の元へ連れていかれた。
「きゃあ〜〜っ、なに? 朱い虎? 獅子? 放して! 放しなさいよ!」
 手前の火に焼かれた赤い岩がゴロンと落ち、巨大な体躯のカグツチが気づいた。
「おや、お前は白雲木の巫女だな。ちょうど良いところへ。お前の性根もワシの母親と同じだ。息子がどうなっても自分の身さえ助かれば良いと思っているだろう」
 とんでもない言いがかりだ。
「そんなこと……、私は日本の古代の歴史を少し知っているだけです!」
「お前はワシを捨てた母親の生まれ変わりだな!」
 波月は鬼のような真っ赤な形相のカグツチから、雷鳴のような声で怒鳴りつけられ、怯えてどうすることもできない。
「わ……私は知らない! 子どもを捨てたりしていないわ!」
「隠しても分かるぞ。お前の魂はイザナミの生まれ変わりだ」
「イザナミさまは日本開闢(かいびゃく)の神さま。私になぞ関わりは無いわ」
 そこへ、後を追ってきた葵生が到着した。
「カグツチ。俺は扶桑樹と白雲木の樹守だ。その巫女は返してもらう」
「そうはさせん。この女はイザナミの……」
 波月がジタバタしたので赤い虎の口からすべり降りた。
「違うと言ってるでしょう! ここに封じ込めてあるのは、ねじ曲がったあなたの憎しみの塊(カタマリ)よ」
「なにぃ〜〜」
「世間の母親がっ!」
 波月はカグツチに力強い一歩を繰り出した。
「母親がどんな思いをしてひとりの人間を……一柱の神をこの世に産み落とすと思われるのですか! 十月十日間、それは苦しい思いをしてお腹を守り通し、自分の命と引き換えにして無事に産むことが、どのくらい苦しいかお分かりですか? ―――いいえ! あなたさまは男ですから、カケラもお分かりにならないでしょう」
「お前は分かるというのか? 巫女よ」
 波月は背筋を伸ばしてすっくと立ち、その場に膝をついて、衣をお尻の下に敷き、かかとの上に座った。
「私は巫女でありながら、禁忌を犯して男児をひとり産みました。ですから母親の気持ちは分かるつもりです」

第三章 形見

「ほう? まだ、ほんの少女のようだが、今の落ち着いた座り方には及第点をやろう」
 カグツチは膝に乗せた手にアゴを乗せた。
「たとえ遠くに離れようと、我が子ほど愛しいものはありません。きっと、あなたさまの母上イザナミさまも我が子が愛しかったことでしょう。しかし……父上のイザナギさまの逆鱗にふれ、どうしようもなかったに違いありません。きっと断腸の思いで別離を決心されたことと思いますよ」
 波月は泣きながら訴えた。
「なのに、火傷を負わせて黄泉の国へ送るとは、なんたる息子でしょう!」
 カグツチの神が瞳の中に炎を燃やして、ゆっくり立ち上がった。
「そこの老婆よ」
 岩陰に身を潜めていた老婆がビクッとした。熱湯釜を運んで白雲木に浴びせようとしていた者だ。
「ここから出してほしくば、イザナミの形見を地上から持ち帰ってこい」
「イザナミさまの形見……? そんな品がいったい、どちらに?」
「イザナギの神……俺の親父神が懐に入れているはずだ。ルリ色の巻貝で……声を入れておける。俺の母親の歌声が収められている」
 巫女の波月も、やっと到着した葵生も巻貝の形見について、しっかりと聞いた。
(歌声を収めておける? そんな巻貝をイザナギさまがお持ちだったなんて――)
 波月と葵生は顔を見合わせた。

 ふたりは、イザナギの幽宮(かくりきゅう=終(つい)の棲み家)へ行くことにした。イザナミの声が入っているという青い巻貝を貸してもらうために。
(カグツチはおそらく、巻貝の母の声を聞けば樹の身を返してくれるわ)
(うむ、そうだな)
 葵生もしっかりうなずいた。
 懐から何冊かの本を取り出し、幽宮の場所を調べる。
 黄泉の国と現世との間にあるようだ。
「これの背に乗ってゆけ。空を飛べる」
 カグツチが、炎虎を貸してくれた。
 炎虎は大きな背中にふたりを乗せると、火山口から空へ舞い上がり、大海原の上空に浮かんだ。
「幽宮のある場所は、現在の地名では淡路島だ」
 葵生が言った。
「カグツチの火山は岐阜県の地下だから、少し距離があるわね」

第四章 樹を発見

 顔面に強い風がびゅんびゅん当たる。
「さ、寒いっ!」
 波月は思わず叫んだ。
「俺のマントに入れ」
 葵生が抱き寄せてマントの中にくるんでくれた。
 海の上をどんどん飛んでいく。
「幽宮へは、この方角でいいのかしら?」
「白クジャクたちの勘に頼ってるんだが……」
「上空からなら地形がよく見えるわ」
 波月が風に負けじと大声を張り上げる。
「アッという間に三河湾に来たわ!」
「波月、はしゃぐんじゃない。どこにカグツチの手下の目が光っているか分からないし、飛行機のレーダーに引っかかるかもしれないぞ!」
「葵生は案外、臆病なのねぇ」
「臆病じゃない、念には念を入れているんだ」
 臆病かどうかはさておき、葵生は計画を立てるにせよ、綿密に抜かりなく立てるタイプだ。
 陸地の上空を飛び、奈良の山地を越えていく。
「平城京跡に来たぞ!」
「ちょうど平城京門が見えてきたわ。きれいな朱塗りの門ねえ。ここは正座文化が大陸から渡ってきた時代の都ね」
「正座師匠の万古老という人は、この時代の人々にうまく正座の所作を伝えられたんだろうか?」
「正座師匠を知ってるの?」
「ウワサだけはな。会ったことはない」

 しばらく飛んでいくと、瀬戸内海に出て、離れ小島があった。
「あっ! 葵生、あれ見て! 樹じゃない?」
 小島の浜辺にひとりの少年がいる。白い浜辺に大の字になって寝ている。
「樹だ!」
 ふたりは白クジャクに、炎虎が下りるよう頼んでくれと命令した。
「クワ〜ン、クワ〜ン」
 クジャクたちが鳴いて、炎虎は海へ高度を下げた。

「樹〜〜! 何してるの?」
 父親と母親が砂浜に降り立つと、樹はガバと起き上がった。
「母さん……! 父さんも!」
「樹ったら、こんなとこで甲羅干し?」
 樹の周りにはルリ色の巻貝が散らばっている。
「違うよ! いつもの通り、三柱鳥居のとこで読書してたら、急に石の下の穴に吸い込まれてさ〜〜、マグマがいっぱい吹き出してるところまで飛ばされて……」
 樹は息継ぎした。
「真っ赤な顔の鬼が、『なんとかって宮にいるイザナギの命っていう人からルリ色の巻貝を受け取ってこい!』って怖い顔で言うから、どうしようと思っていたら目の前に白髪のボロボロになったお爺さんが現れてサ」
「カグツチさまがお前にも命令したのね。イザナギの命さまに会ってきたのね?」
「多分、あの人がイザナギの命だと思う。……で、『ルリ色の巻貝を全部持って帰れ、ワシはもう要らん』って言って……」
「要らないって?」
「そしたら、次の瞬間、巻貝と一緒に海に放り出されてたんだ」
 樹はしゅんとした。
「この巻貝から黄泉の国へ言った人の言葉が聞こえるらしいんだけど……どれもスカでさ」
「えっ! 聞こえないの?」
「一個ずつ、ぜえ〜んぶ試してみたけど、だめだ!」
 葵生も波月もポカンと口を開けた。
「偽物だったってこと?」
「いや、イザナギってお爺さんが声を聞きまくって枯れてしまったみたいなんだ」
「まあ〜〜、イザナギさまは相当な愛妻家だったのね」
「黄泉の国まで追いかけてったんだもんな」
 葵生がため息をついた。

第五章 幽宮へ

「ボク、必死のパッチで泳いでこの浜に着いたんだ。この巻貝たち、自分で泳いでついてくるんだよ!」
「まさか……」
「ほんとだってば!」
 葵生がリュックから本を取り出した。
「このルリ貝ってのは、水にプカプカ浮いて生きているんだそうだ」
「ほら見な、俺の言った通りだろ」
「巻貝のことは合っているが、樹、必死のパッチで泳いだ後で申し訳ないが…… イザナギさまの幽宮っていうのは、この海岸のすぐ裏側だ」
「えええ~~~、なんて言った、父さん!」
「じゃあ、イザナギさまにお会いしに行きましょうよ」
 波月が言った。
「せっかく泳いできたのに……」
「樹ったら! こんなチャンス滅多にないわよ」
 樹が葵生の方をむいた。
(父さん……、母さんって紫クジャクを抱いた女の子の……)
「ピコちゃんか?」
「そうそう。あの元気な子に負けないくらい元気だね」
「そうなんだよ。これでも巫女だろうか」
「お転婆って言いたいのね」

 三人は炎虎の背中に乗って、湾をぐるりと廻っていった。
 白いヒゲを胸まで垂らし、ボロボロの着物を着た老人が樹の根元に力なく座っている。
「イザナギの命さまでいらっしゃいますか?」
 葵生が尋ねた。
「ああ。そうとも呼ばれたこともあったな」
 勢いのない声で老人は答えた。老人を囲んで、若者3人は砂浜に座った。
「お爺さん、ボクだよ。何度も申し訳ないけど、このたくさんの貝から、イザナミの命さまの声は聞こえてこなかったよ」
「んん? そうかえ?」
 老人は巻貝を耳にあててみた。
「かすかに聞こえるぞ。……よおく聞いてみい」
 もう一度、樹は耳にあてた。
「……うん? 潮騒に混じって聞こえるのは……」
 樹の耳に女性の声が響いた。
「カグツチ……あなたは自分を責めていることでしょうね。でも、責めなくていいのよ。イザナギさまは国を守る立場のお方。燃えた身体の私を追い出すしかなかったのよ。父上をうらんではいけないわ」
 優しい声が響いた。

第六章 子守歌

 次の瞬間、樹が「あっ」と叫んだ。
 いきなり背後からにょっきりと手が出て、ルリ貝の大きなのをつかんだ老婆が山手の鳥居に走っていく。
「あっ、あの熱湯釜の婆さんだ!」
「どの貝も声が聞こえないのに!」
「それはどうだか分からないわよ、お婆さんには分かるのかも!」
 鳥居の内側にどんどん走っていく。樹たちも炎虎に乗って追いかけた。いつしか地下の道を飛んで通り抜けていた。

 かなりの距離を飛んだり走ったりして、再びカグツチのマグマの地下に帰ってきた。
 しかも、炎虎が吼えたとたんに岩盤が崩れて、マグマに囲まれた岩の柱のてっぺんに樹だけが取り残された。
 いつ足元の岩が崩れるか分からない危うさだ。
「樹〜〜!」
 対岸のしっかりした地盤から、波月が叫んだ。
 さっき、浜辺で聞いたイザナミの声を思い出して、波月は叫んだ。
「イザナミさま、どうか息子を助けてやってください!」
 ゆっくりと所作通り正座して、心から祈った。

 カグツチが縄バシコを投げて、樹は汗だくになりながら、縄を伝って頑丈な崖の岩にたどり着くことができた。
 腰にくくりつけたシャツには、ルリ色の巻貝が厳重に包まれていた。

「こっちの貝が声の出る本物だよ」
「樹、いつのまに?」
 波月と葵生が目を飛び出させる。
「イザナギさまが、素早く取り換えたのさ」
 カグツチが耳にあててみると、母親の子守歌が聞こえるではないか。
『ねんね~ん、ころりぃよ~~、おころ~り~よ~』
「母上~~~!」
 カグツチは巻貝を抱きしめて号泣する。

第七章 ルリ貝との別れ

 こざっぱりした着物姿の老婆が現れた。
 熱湯を白雲木に浴びせようとした、赤毛の老婆が黒髪の姿になり、しゃっきりして立っていた。
「あんたは、さっきまで岩陰に隠れていた赤毛の……」
 カグツチは驚く。
 老婆は上古時代の輝く冠を被り、絹衣姿の妃イザナミの姿になって、カグツチの涙を優しく拭いた。
 カグツチは一歩下がって、正座してから頭を下げる。
「罪のない母上に火傷を負わせてしまい、申し訳なかった……」
「よいのじゃ。これからは堂々と火山の神として振る舞って生きよ!」
 イザナミは更に、現代的な赤毛のベリーショートヘアの姿になって、着物を脱ぐとレオタード姿になった。くるりと空中回転などしてから、
「元気でな〜〜!」
 手を振って駆けていく。
 その姿は、だんだんモヤが薄くなるように消えていく。
「母はいつまでも見守っているからな……」

 カグツチは貝からも消えていく母親の声を聞きながらつぶやく。
(もしかしたら、この貝の歌声は何年かすると消えるように作られたものかもしれないな……。いつまでも生者が亡者に足止めされないように)
 巻貝をゆっくり耳から放した。
 放しかけた時に、父親のイザナギの声が聞こえてきた。
『お前もワシも、イザナミをかなり恋しく思っていたようだな。お前の弟スサノオの尊も、母親との別れに際し号泣が止まらなかった……。だが、それではいかんのだ。いい加減、別れを惜しんだら、生者は次の段階を生きねばならん。そう告げたいがために、巻貝の声には限りがあるのだ』
「親父どの!」
 カグツチは叫んだが、
『ワシのことも気にせず、火山の神としてしっかり生きよ。分かったな』
 巻貝からは二度と声は聞こえなかった。
 カグツチは巻貝をもう一度、抱きしめてから火口まで歩いていき、思いきり遠くのマグマの中に投げつけた。
 巻貝は小さくなっていき、オレンジ色の塊となって燃えてから没した。

 火口のフチで、少年が母親と抱き合って喜ぶ姿が見えた。
「樹〜〜、よくぞ無事で!」
「母さ〜〜ん!」
 カグツチは舌うちしてから、苦笑した。
「まったく、男ってのは、母親が好きで好きでたまらないんだな……」

第八章 母との約束

 樹と両親は炎虎に乗って馴染んだ町に帰ってきた。
 宮司さんの社務所から美穏が飛びだしてきて、入口の鳥居の下で待っていた。
「樹く〜〜ん!」
 ふたりは思い切り抱き合った。
「ただいま、美穏。心配させたな」
「ホントに! 心配したんだから! 今度心配させたら、お小遣い無しにするからねっ!」
「ええ〜〜? それは勘弁してくれよぉ」
「知らないっ! 自分でバイトでもしなさい!」
 ふと、街角でゴザの上に青い巻貝を並べている赤毛の老婆の姿が見えた。
 たて看板には、
【これはフシギフシギ! 耳に当てればイザナミさまのお声が聞こえます。たったの3万円!】
 と書いてある。

 葵生と波月が、肩をすくめた。
「あの婆さん、いや、イザナミさまの商売根性は永遠に直りそうにないな」
「樹も、あの逞しさを見習わなきゃね! 弟子入りする?」
 波月が背中をたたいて笑った。
「冗談でもやめてくれっ」
「冗談よ。私もそろそろ、現世とはお別れしなきゃ」
「母さん……」
 樹が目元を拭いた。
「あらら、カグツチさまみたいに泣かないでよ。白雲木の下に立っていたら、またいつか会いに来てあげるわよ」
 樹はジーンズのポケットから、菩提樹の実で作られた首飾りを出してみせた。
「これ、母さんからもらったお守り。ずっと大切に持ってるよ」
「うん、お友達の分もね!」
 波月は手のひらを息子の頭にあて、くしゃくしゃとした。


おすすめ