[421]白クジャクの矢
タイトル:白クジャクの矢
掲載日:2026/07/13
シリーズ名:白雲木シリーズ
シリーズ番号:6
著者:海道 遠
あらすじ:
樹(たつる)は若くして亡くなったという母親のことを知りたくて仕方がない。そのこともあり、郷土史の勉強を始めた。
宮司の祖父上から同じ芽から生まれたもうひとりの扶桑樹の樹守と会ってみるかと言われて会う。
樹守は本名の「葵生(あおい)」も教えてくれ、外見も若くしてくれた。
樹が3歳の時に済ませるべきだった、「桑弧蓬矢」の儀をやりたいと言い出す。そこへ、崖の上から白雲木に向かって熱湯を浴びせようという妖怪婆が現れる。

本文
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第一章 三柱(みはしら)の鳥居
『樹(たつる)……、樹……』
誰かに呼ばれて、ふと目が覚めた。
まず、目に入ったのは陽光の射す緑の樹冠(じゅかん)だ。
少し顔を横に向けると朱塗りの柱が見えた。ずいぶん剥げているけど、珍しい三角形に組まれた三柱(みばしら)の鳥居だ。
(あ……本を読んでいて眠っちまったか)
鳥居に囲まれている真ん中には、長四角の石が置かれていて、樹(たつる)のお決まりの昼寝の場所なのだ。
(今度こそ、美穏(みおん)のクッション借りてこよう。背中が痛え……)
巨樹の内部の世界だ。目の前にある朱塗りの三柱の鳥居は樹のための貴重な場所だ。
(宮司さんの祖父上の話によると、ボクの亡き母の魂が三柱の鳥居の中に眠っているらしい。何故、人間の魂が鳥居に囲まれて眠っているかって?)
(多分、母を愛したのが巨樹の樹霊だから、そう計らってくれたのだろう)
ここで座っていると気持ちが和む。
(さあ、そろそろ祖父上の社務所に行かないと!)
樹は、宮司さんの祖父上の元に通い、神社やご神木について勉強を初めた。
夜になると、真面目に祖父上の元へ通い、いろんな古文書など見せてもらって学んでいる。
通信制の郷土史の講座で、この土地の歴史についても学びはじめた。
巫女だったという母親が、どんな人だったのか知りたくてたまらない。
祖父上に聞いてみると、真面目に働く巫女さんだったらしいが、か弱そうだったとか。
身内がいなくて、神社で運営している乳児園で育ったらしい。
それを聞いて樹は心が痛む。
「母さんの境遇が、そんなに淋しい境遇だったとは〜〜」
借りたタオルをびしょびしょにして、泣きながらマンションに帰った。
美穏に話すと、
「変ねえ。その巫女さんて、前に祖父上から聞いた話では、かなり逞しい女の子だったそうよ。ピコちゃんみたいに元気ハツラツだったとか」
「どっちが本当の話だろう?」
涙は止まったものの、樹の疑問は以前より膨らんだ。
第二章 白雲木の青年
一度、夢の中ではっきりと母に会ったことがある。
あれは、村に凶獣が来ると分かって、小学生の自分に母の手からお守りにと、菩提樹の念珠を美穏と緑青の分まで渡された時だ。
夢の中の母は、まだ若く想像した通りの優しそうな巫女さんだった。
たおやかで、一面ハキハキとした、
(凶獣なんかに負けるんじゃないわよ!)
と言いそうな、元気いっぱいの女性だった。
(きっと母は優しさも、凶獣に立ち向かう勇気も、持ち合わせていた女子だったのではないかな)
「樹くん、白雲木の翁に会って話を聞くかね? 君の父親かもしれない」
宮司の祖父上が言った。
「よろしいんですか? お会いできるのなら、是非、お願いします!」
樹は顔を輝かせて正座に座り直し、頭を下げた。
「分かった。この次に来られたら、すぐに呼びますからな」
さて、3日後にやってきた白雲木の翁に会ってみて、樹は驚きを隠せない。
「これは、宮司さんの祖父上とうりふたつでいらっしゃいますね」
つい、ズバリと言葉が出た。翁は落ちついて、
「同じ芽として命を授かったからのう。どちらか区別がつかなくて、やりにくいじゃろう」
しばらく縁側に出ていた翁は、青年の姿になって戻ってきた。
「どうだ? これなら区別がついて、お前とも同年代で話しやすいだろう。葵生(あおい)と呼んでくれ」
「葵生?」
「扶桑樹の仲間のハイビスカスから取った名前だ」
「今日は、私を産んだ巫女についてお聞かせいただければ……と」
「あの巫女のことか? う〜む、なんと言えばいいやら……」
難しい表情をして、なかなか話し出さない。樹は樹霊が強度の照れくさがり屋だと思いこんでしまった。
(樹霊どのは、相当な恥ずかしがり屋だな)
息子だと名乗りを上げて挨拶することもできない。
「樹くん……。君の母上は明るく思いやり深く、どこの貴人に会わせても恥ずかしくない、立派な女性だった。このくらいしか言えないが……」
「ありがとうございます、白雲木の翁。いや、葵生さま」
「『葵生』でいいよ」
樹は頭を下げて、葵生に深く感謝した。
幸薄かった母を愛してくれたのだと思うと、胸が熱くなった。
そこで宮司さんの祖父上が、
「そうそう、母上の人柄が知りたければ、白雲木の女神さまが時折、話しかけていたようじゃ。うかがってみればどうかな?」
「女神さまがですか! お伺いしてみます」
樹は新しい手がかりを得て喜んだ。
第三章 女神の話
後日、女神から樹にお召しがあった。
境内の一角にある清楚な庵で樹を迎えた女神は、ゆっくり振り返り、お茶を勧めた。
「母どののことを知りたいのですか?」
「は、はい」
「もっともなことですね。3歳になると、あなたは巨樹に『契子(ちぎりこ)』として預かってもらったのですから、母どののお顔もあまり覚えていないでしょうね」
相変わらず、女神は穢れなど一点もない優しいお顔で迎えてくれた。
「契子」の風習は台湾から渡ってきて、一部の日本に根づいていた。
立派な巨樹にひ弱そうな幼子を預かっていただき、一定期間、力強く育ててもらうのだ。
「しかし、宮司の祖父上や翁さまに母どののことを、うかがってはなりませぬ。いくら親子のこととて、神職に仕える者が樹霊の子を授かってしまったのですから。口にすれば神罰が下されるのです」
穏やかな中に厳しい声が含まれていた。
樹は、胸が裂けるような思いがした。
「ボ……ボクはなんて気のつかない、思いやりのない人間なのでしょう!」
「あなたは外界から隔てられて成長しましたから、仕方のないことです。―――それに異種の子を授かってしまったのは、わたくしも同じことです。ふたりの樹霊様のどちらかを許婚者にと勧められながら、孔雀族の男の子を授かったのですから」
「決まりがあっても、心は自由になりませんよね……」
女神の息子の緑青(ろくしょう)と樹は、今では親しい友人だ。
「時がボクたちの心のキズを軽くしてくれますように。そして、ボクたちの精神を強くしてくれますように」
「樹くん、あなたは優しい少年に育ってくれたわね。今だけ言わせていただくと、お母様によく似ているわ」
「本当ですか。ありがとうございます!」
第四章 枯れはじめる
話は過去に戻る。
幼い樹は、白雲木の根元で正座し、「契子」の誓約の挨拶をした。しばらくは、樹は白雲木の子を名乗って勇壮で心優しい子になるよう育てられる。
ところが、ひと月ほどしてから「契子」の願掛けをした白雲木が枯れはじめた。
村人は「契子」の儀式のせいで、幼子(樹)が白雲木の養分を吸い取ったからに違いないと噂する。
それを知った巫女は、白雲木の前で群がっている村人たちに叫んだ。
「村の方々、白雲木が枯れはじめたのは『契子』のせいではありません! 『契子』の儀式など白雲木にとってはなんでもないことです! きっと訳があるはずです。私が証明してみせます!」
村人たちはもちろん、宮司さんの祖父上や女神も、その剣幕にたじたじとなった。
巫女はさっそく、草履を脱いで白雲木に昇りはじめた。細い手足を精一杯伸ばして昇っていく姿は、危なっかしいにもほどがある。
しかし、巫女は本気だった。宿り木は遥か上方にあるが諦めようとはしない。ひと足ずつ着実に昇っていく。
巫女は巨木に昇る前から、小さな集団の羽音に気づいていた。
(この音は……多分、そうだわ)
夕暮れが迫ってきた。
西の山の端に太陽が沈もうとしている。
やがて、巫女の目の前に球形に茂った宿り木が迫った。
一羽の大きなカラスが、巫女の背中から羽ばたいて近づき、宿り木を覗き見るようにした。
そして、いっそう大きな声で「カア!」と叫び、枝に止まった。
次に巫女の背後に近づいたのは、根元から昇ってきた黒髪に黒い衣を着た長身の男だ。
肩で息をしている巫女を押し留めながら、
「巫女さん、宿り木の奥にはデカいスズメバチの巣が三つもある。これ以上近づいては危険だ」
と言った。
「では、白雲木が枯れかけているのは、やはり……」
「スズメバチの巣のせいだ。『契子』のせいではない」
「ほ、本当ですか」
「いいから下りなさい。手袋も着けないで無謀すぎる!」
「あなたこそ、こんな黒衣で無謀すぎます。ハチは黒いところに寄ってくるのです」
「とにかく夜になるのを待ちなさい。ハチは夜になると活動を止めますから」
「白雲木が枯れかけたのは『契子』のせいではないと分かっただけで結構です。もう下ります」
第五章 嬉しい報告
母親の執念で原因を突き止めた一件を、巫女は女神に話した。
「女神さま! 白雲木が弱ったのは『契子』のせいではなく、スズメバチの巣のせいでした。この眼で確かめてきました」
――――――――――――
「あの時の母どのの輝く瞳をよく覚えていますよ」
女神さまは、成長した樹ににっこりして言った。
「あなたの母どのは聡明で、行動的で我が子のことを一生懸命に守るお方でした」
樹は、嬉しさと感謝をこめて女神さまの両手を包んだ。
「途中から応援してくださった黒衣の男性というのは、どなたでしたの?」
樹は笑顔で、
「おそらく、無明さんですよ。後でスズメバチに刺された時の薬も持ってきてくださったそうですから」
「まあ、無明さん! さもありなんですね」
第六章 妬みの熱湯釜
「契子(ちぎりこ)」の儀式が終わり、母の巫女はホッとしたところへ、父の葵生がやってきた。
「この子が生まれた時に、私は側にいなかった。桑孤蓬矢(そうこほうし)の儀式をしてやれなくて心残りだ」
と言い出した。
桑孤蓬矢とは男児が生まれた時に、父親が桑の木でできた弓で蓬の矢を四方に射て、子が勇壮に育つように願う成長を祈る儀式である。
「今からでも矢を射てやりたい」
という。
「それは佳きことを思い出されました」
と宮司の祖父上と女神は賛成する。
そんな矢先、宮司の祖父上が原因不明の高熱になり、なかなか解熱しない。
無明が何かを感じて、辺りを探っていた。
白雲木の周りの村にも、扶桑樹の周りの村にも異常は見られない。
しかし、葵生が従えている白孔雀が、苦しそうに鳴き声を上げることがあるという。
「今までそんなことはあったのか?」
「いや、覚えがない」
葵生にも分からない。
宮司の祖父上が、横になっている布団から無明を呼んだ。
「熱が高いせいで……空耳かもしれないが、丘の上の方から、熱湯を沸かした時の釜がグツグツいう音が聞こえないか?」
無明と女神が耳を澄ませた。確かに聞こえる。
その時、葵生の白孔雀たちが、興奮して鳴きはじめた。
「この音のせいで白孔雀は騒いでいたのか?」
「いったい誰が湯を沸かしているのでしょう」
無明と葵生が裏山の丘へ昇った。
すると、とんでもない光景が目に入ってきた。
熱湯の入った大釜に縄を巻いて、引きずっていこうとしている朱い髪の老婆がいる。
このまま進めば白雲木の頭頂がある崖だ。
「お前は誰だ! 釜いっぱいの熱湯をどうする気だ!」
葵生が怒鳴りつけた。
「おや、これは……もう少しで樹冠じゃったのに、邪魔が入ったわい」
見開いた眼に、朱い蓬髪、手足は枯れ木のように細い老婆だ。
「お前は人間ではないな。全身が怨みで懲りかたまった、恐ろしい姿だ」
「ふっふっふ、ワテは妖怪、熱湯釜(ねっとうがま)婆じゃ。こうなったら、すぐに釜の湯を樹に浴びせるまでじゃ」
枯れ木のような老婆の、どこからそんな力が出るのか、唸り声を発して釜が傾けられると、おびただしい量の熱湯が樹に浴びせられた。
第七章 老婆の性根
葵生の周りにいた白孔雀が一斉に飛び立った。
「ふん、誰からも美しいとチヤホヤされている白雲木と鳥どもめが! 目にもの見せてやるわ」
「孔雀ども、逃げよ〜〜!」
葵生の声と共に、白孔雀たちは飛び立った。同時に、老婆は流れる熱湯に足を滑らせた。
「ぎゃあああ!」
(崖下へ落ちる! ――!)
老婆が観念して目を瞑った時、腕は逞しい青年ふたりにしっかりと握られていた。
「お、お主たち……」
「大切な白雲木に熱湯をかけようとするとは」
「このまま解放してもらえると思うな、婆さん」
ふたりは、女神の元へ老婆を連れていった。
「熱湯釜婆とやら。白雲木の上から熱湯を浴びせようとしたのは誠か」
女神もさすがに、引き締めた顔をして問うた。
「ふん、これで、長く生きてきた白雲木も終わりじゃ。いい気味じゃ」
「何ゆえそのように白雲木を憎むのです?」
「ただ美しいだけで人から優遇されてきたゆえじゃ」
「美しいものを妬んで命を奪おうとしたのですね。あなたが醜いのは外見ではなく、心です」
女神は老婆を一室に閉じこめておいた。
しかし、翌日、妖怪婆の閉じこめた部屋は、もぬけの殻になっていた。
「命の恩人である樹くんと葵生くんに、お礼も言わずにか?」
女神も宮司の祖父上も呆れ返ってしまった。
赤毛の妖怪婆はこれに凝りず、何かの神を頼ってもっと多くの熱湯を沸かそうと計画していた。
今度はもっと多くの熱湯を用意しようと目論み、頭を巡らせた。
(そうじゃ! 偉大なカグツチの神なら大量の溶岩で熱湯を用意してくださるじゃろう)
火山の神、カグツチはイザナギ夫婦神のイザナミの亡くなる原因になったお産の際に生まれた神である。
不幸にも母のイザナミを、生まれた時に亡くしたカグツチは、同じように母の面影を追う葵生と慕わしさを持っているかもしれない。
純白の着物を手に入れ、髪は黒く染めて肌は真珠の砕いた粉を海の妖怪仲間から取り寄せて、多分に塗りこみ、イザナミを思わせる扮装をした。
第八章 白クジャク
溶岩流があちこちで噴き出し、湯気の満ちる岩原で、カグツチの神は寝転んでいた。
しかし全身の筋肉からは熱が滾り、力が有り余った様子だ。
赤く灼けた小石が転がってきた。
「カグツチの神さま。お客ですぞ」
「客?」
カグツチの神は、のっそりと巨体を動かした。
「へい。熱湯の妖怪女が、お願いがあるそうで」
「熱湯の妖怪女? 知らぬな。追い返せ」
「それが……目に涙を溜めて、切々と訴えております」
「何をだ」
「老婆の申すには……巨樹に湧く害虫を退治しようと熱湯を沸かして持参したというのに、樹守に釜をひっくり返され、もう少しで命を落とすところだったとか」
「なに? 樹守が人の好意を踏みにじったと申すか」
早くも気の短いカグツチは、頭から湯気を噴き出した。
「とんでもない樹守だな」
「それでも、もう一度、熱湯を沸かして害虫を駆除したいゆえ、カグツチさまの強大な炎と熱の力をお借りしたいとのことです」
「ひどい目に遭いながらも健気ではないか、その熱湯の妖怪女は」
「カグツチさまにお目にかかりたいと待っております」
熱い岩の原で、女が半分、顔を隠しながら、ひざまずいて待っていた。
「これは、カグツチの神さま、お目通りいただきありがとうございます」
カグツチの視界に、赤黒い溶岩の中に立つ純白の着物を着た黒髪の健気そうな女が飛びこんできた。痩せて力の無さそうな女は、亡くなる寸前の母君を思い出させた。
「熱湯の妖怪女とやら。良かろう。ワシの巨釜(おおがま)を使ってよい。巨釜の締まってある部屋のカギを渡そう」
「これは、なんという幸せ。感謝いたします」
(うまくいった……)
にやりと笑って妖怪女がカギを受け取ろうとした、その時、カグツチの大きな手と女の手の隙間に、目にも止まらぬ速さで飛んできたものがある。
一本の剣が真一文字に目の前を通りすぎ、岩に突き刺さった。と、思うとそれは純白の孔雀だった。
カギは溶岩流の中へ落ちてしまった。白クジャクは空高く舞い上がり、飛び去った。
「あの白クジャクはっ! ええい、口惜しや!」
第九章 過去に届いた矢
白雲木の村では、まだ3歳になったばかりの樹のために、桑弧蓬矢が父親の葵生の手によって、放たれたところだった。
父親の弓矢の剛腕さに、村人たちが拍手した。
「葵生、お見事!」
「お父しゃん、カッコいい!」
母の巫女と樹が、駆け寄って樹に抱きついた。
親子3人は、ご神木に向かい、並んで背筋を伸ばし緋毛氈の上に膝をついて衣をお尻の下に敷き、かかとの上に座り、ゆっくり頭を下げた。
そして現在。
樹は三柱の中央にある長方形の石の上で、のんびりと本を広げていたが、ただならない表情で起き上がった。
「待てよ? このままじゃ、またもや熱湯婆がやってきて、白雲木は熱湯を浴びることになるのではないか?」
急いで起き上がり、鳥居を出ようとした。
ちょうど来合わせた美穏とぶつかりそうになった。
「樹くん、せっかくクッションを持ってきてあげたのに、どこへ行くの?」
「祖父上のところだよ! 気になる資料があるかどうか見て来る!」
樹は社務所へダッシュしていった。
「ごめんくださ〜〜い!」
勝手知ったる宮司さんの祖父上の隠居所へ上がると、樹はすぐに書斎へ飛び込んだ。
「えっと、1年くらい前の『契子』の記録、記録……あった! これだ!」
かなり上の棚から、樹は分厚いノートを取り出した。
「なになに……『契子』の名簿……若森 樹……これだ!」
懸命に視線を走らせる。
「『葵生の君の長男、若森 樹、満三歳。契子儀式、無事修了』
『無明氏から妙な報告あり、身元不明の高齢女性が連行されたが、翌日から行方不明に』」
記録はここまでで途切れていた。
「……ってことは、釜婆の再チャレンジは無かったんだな」
ホッとして、力が抜けた。
その頃、美穏は三柱鳥居を後にしようとして、長方形の石の隙間から真っ暗闇の隙間が見えることに気づいた。




