第2回 仙台にて秋を想う
掲載日 | 2013/06/25 |
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著者 | かねしろさく |
イラスト | 林 加奈子 |
仙台市は内陸部であるため津波の被害も少なく、親族や友人もみな無事だった。街並みも震災以前とあまり変わらない。仙台市に住んでいる家族の口からももう震災の話題はほとんど出なかった。
東京はまだ暖かい日が続いていたが、仙台はすっかり秋である。紅葉しはじめた木々や澄んだ快晴の空が鮮やかだった。法要を行うお寺は市街地を少しはずれた山あいにあり、道中私たちに秋の風情をたっぷりと見せてくれた。




また、このお寺の柱にも地震のせいでヒビが入り、修理はまだ万全ではないらしい。震災の傷跡はこんなところにも残っていたのだと、改めて思う。
この後は家族で旅館に宿泊する予定である。今回の帰郷の目的は法事だけではない、ひさしぶりに家族そろっての団欒も兼ねていた。それに法要も十三回忌にもなればもう明るいものだ。旅館では亡き祖父の思い出話に花が咲いた。
泊まったのは秋保の温泉旅館だ。夕食を終え部屋へ戻ると、父がいつになく真剣な顔で
「話したいことがある」
と言う。私は父の近くに正座で座った。父は来年退職するとのことだった。父はもう五十も半ば、人生の秋、という言葉が脳裏に浮かぶ。
親が老いたと実感するのは心細いが、それ以上に背筋の伸びる思いだった。精神的な自立を意識せざるをえないからだ。
正座したまま私は言った。
「今までおつかれさまでした。どうもありがとう」
そして、そういえば今日はたくさん正座してる……と気づいたのだった。祖父の法要と父の退職報告、それぞれ理由は違えどとても大事だ。
厳かな気持ちになるとつい自然と正座をしてしまう。日本人の性というか、昔からずっと続く、私たちの「誠意の示し方」のひとつなのだろう。
