[165]第6回 正座で魅せる、お、も、て、な、し


発行日:2014/01/10
タイトル:第6回 正座で魅せる、お、も、て、な、し
シリーズ名:とりあえず座れ
シリーズ番号:6

分類:電子書籍
販売形式:ダウンロード販売
ファイル形式:pdf
販売価格:100円

著者:かねしろさく
イラスト:林 加奈子

販売サイト
https://seiza.booth.pm/items/3131609

本文

 前回から「正座と日本人」について歴史や健康への影響をお伝えしてきたが、今回は「正座と外国人」について考えてみよう。
 海外の人たちが正座を知るきっかけはなんだろうか。その多くは、かれらが日本文化に興味を持ち、空手や剣道などを習ったときだ。
 また、時代物の邦画や、最近では日本のアニメから正座の存在を知る人も増えている。近頃は秋葉原が外国人の人気観光地になっているくらいだから、日本のサブカルチャーへの関心はきわめて高い。可愛らしいアニメヒロインが正座をする姿って、もしかしたら海外へ正座をアピールするための一番の広告塔になりえるのでは?
 外国人が正座に抱く印象はさまざまである。椅子に座る生活様式の欧米諸国にとって、正座はちょっと変わった姿に見えるらしい。かれらの多くは「どうして日本人はあんな不思議な座り方をするのだろう?」と思っている。
 しかしその一方で、日本武道を習っている外国人などはすでに正座に慣れ親しんでいるようだ。「俺は一時間くらいではもう足は痺れない。慣れたよ」と自らの正座習熟度を誇る人もいた。なんだか微笑ましい。だけど日本人の私でも、一時間も正座をしたら立ち上がれないくらい足が痺れちゃうと思う……。

 同じアジアの中国には正座の習慣がないけど、そこで生じる日本とのギャップはあるのだろうか。かつては中国人のほうが日本人よりも、胴が短く足が長い傾向があった。中国の美女といえば以前シャンプーのCMに出ていた、チャン・ツィーさんが有名だけど、長く美しい髪と小さな顔、そしてなによりあのスレンダーなスタイルが魅力的である。
 これだけの情報だと「正座をすると足が短くなってスタイルが悪くなる?」と思ってしまうかもしれない。しかし日本と中国の体型の違いは、食生活の違いからくるものである。中国は日本よりも早く食生活に肉を取り入れたため、胴が短くなったのだ。
 アメリカからの帰国子女の友人Sちゃんは、十八歳までほとんど正座をせずに過ごしてきたけど、体型はごく普通の日本人の女の子のそれだ。私はSちゃんとほぼ同じ身長だけど、体型の差はない。だいたい同じサイズのジーンズを履ける。
 正座が体型に及ぼす影響は、実は些細なものである。長時間の正座がボディラインに作用するとしたら、それは足の長さや太さの変化ではなく、足首のあたりに座りだこができる程度ではないだろうか。
 日本と中国の正座によるギャップのひとつに「座りだこ」の逸話がある。それは日中戦争時、中国に潜入した日本軍のスパイを見分ける方法として、正座による座りだこの有無を確認していたのだとか。日本のスパイは、たとえどんなに中国語が上手でも、座りだこがあるとすぐにバレてしまったらしい。正座の習慣がある日本人と中国人、興味深いエピソードである。

 そして先日、わたしは日本正座協会としてラジオに出演した。ベイエムエムの朝の番組にて、「東京五輪開催で見直そうニッポンの文化!」というコーナーで正座の魅力を伝えるコメンテーターとしてオファーが来たのだ。
 2020年夏期東京五輪を控え、日本の文化は今まで以上に海外から注目される。そこで海外の人に日本文化のひとつである正座の魅力をアピールしよう、というのが今回のラジオ出演の目的だった。ラジオ初出演のわたしは緊張で頭が真っ白になりそうだったけど、うまくPRできていたらいいな。
 ラジオでのインタビューも無事終わったことだし、せっかくなので身のまわりの外国人にも正座を広めてみよう。そこで韓国とアメリカのハーフの友人Aちゃんを自宅へ招いた。彼女は、つい数ヶ月前に日本へ来たばりの、アメリカ育ちの女子大生。まだ日本語が堪能ではなく、「徒歩」や「帰宅」など、会話にちょっと堅い言い回しが混じると理解に時間がかかるよう。
 そんなAちゃんは「正座」という日本語を知らなかったけど、実際に目の前で座って見せたら、座り方自体は知っていた。お願いしてAちゃんにも正座の姿勢を取ってもらったら、「うーん……」と苦笑い。あんまりお気に召さなかったみたいだ。それは私の部屋のフローリングの上でのことだったから、たぶん、ロケーションが悪かったにちがいない。今度はおしゃれな居酒屋の座敷席にでも連れて行ってあげよう。
 外国人が日本文化に触れようとしたとき、必ずといっていいほど正座に出会う。それは武道や茶道といった習い事だったり、観光で訪れたお寺や旅館での立ち振る舞いだったり、さまざまだろう。正座は日本的な情緒のお供みたいなものである。興味を持った日本文化に触れるときに、正座もいっしょに楽しんでほしい。
 また、正座は誠実な気持ちを表すために用いられる。たとえば、江戸時代の商人がおもてなしの気持ちを込めて正座をはじめたように……。それは東京五輪招致の功労者となった滝川クリステルさんの「お、も、て、な、し」にも通じるところがあるのではないかしら。
 正座の端正な佇まいには、礼節を重んじる日本的な心が映し出されている。それが海外に伝えたい正座の魅力の最たるものだ。

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