[206]第18回 海外の人から見た正座って?


発行日:2021/09/12
タイトル:第18回 海外の人から見た正座って?
シリーズ名:WHAT IS 正座!?
シリーズ番号:18

分類:電子書籍
販売形式:ダウンロード販売
ファイル形式:pdf
販売価格:100円

著者:HASHI
イラスト:鬼倉 みのり

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 日本人にとって「正座」はもはやフォーマルな座り方のひとつと言えます。実際に茶道や華道、武道など日本で古くから続いている伝統芸能や風習において、正座は必須の坐り方のひとつですし、格式ある場や冠婚葬祭の場では正座は当たり前のように行われています。このように日本人にとっては馴染みが深い正座ですが、海外の人にとってはどんな印象を持たれているのでしょうか? 今回は海外の人から見た正座について紹介していきたいと思います。


・日本で言う「正座」の習慣は世界的に見ても稀?

 本コラムでも何回も取り上げているように、日本では古くから正座が日常生活の中に深く組み込まれていました。実際に現存している昔の絵などを見てみると、正座をしている日本人が多く描かれていることからも、当たり前のように正座が用いられていたことが分かります。

 一方で、正座という座り方自体は日本オリジナルのものというわけではありません。世界にはさまざまな宗教が存在していますが、多くの宗教では礼拝する際に一時的に正座かそれに近い体勢をとります。実際に世界各地にある古い宗教画を見てみると、正座をしている人々の姿が描かれているものも少なくはありません。


 このように、正座自体は世界各国で主に宗教的な役割を担った座り方として用いられています。しかしそれはあくまで一時的な座り方であり、日本人のように日常生活の中で当たり前のように採られるものではありません。日本人のように、フォーマルな座り方として正座が確立されているのは、世界的に見ても稀なのです。

・フランス人は正座どころかしゃがむことができない?

 フランスの社会学者であり、民俗学者であるマルセル・モース(1872~1950)をご存知でしょうか? 彼は文化や習慣によって培われた立ち振る舞いには固有の法則性があることを発見し、これを「身体技法」と名付けています。この身体技法を発見したきっかけとなったのは、マルセル・モース自身が戦地に赴いた際に、自分を含むフランス人が一緒にいたオーストラリア人兵士のようにしゃがみこんで休息をとることができなかったことだと言われています。「しゃがみ込むことができる」という点に関しては、マルセル・モースはオーストラリア人兵士に劣っていることを認めざるを得なかったことから、彼にとっては苦い経験になったそうです。


 フランス人といえども、子供たちは当たり前のようにしゃがみこむことができます。しかし大人になるにつれしゃがみ込むことができなくなってくるのです。これはフランスに限ったことではなく、室内でも靴を脱がない風習がある欧米諸国に住む人々の多くにみられる特徴となります。こういった欧米諸国では、床に座ったりしゃがみこんだりする姿勢は衛生面からもタブー視される雰囲気にあることが深く関係しています。

・まとめ

 いかがでしたか? 海外、とりわけフランスをはじめとする欧米諸国では正座はおろかしゃがみ込むという習慣すら馴染みが無いことが分かりました。古くから畳にちゃぶ台を置いて床に座って生活していた日本人と、テーブルと椅子が当たり前のように置かれていた欧米人とでは、正座に対する価値観も思い入れも異なるのは当たり前かもしれません。ぜひ参考にしてください。


※参考文献
丁宋鐵(2009)『正座と日本人』講談社.
矢田部英正(2011)『日本人の坐りかた』集英社新書.

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