[319]第29話 季節の変わり目に「正座療法」を


発行日:2024/11/15
タイトル:第29話 季節の変わり目に「正座療法」を
シリーズ名:やさしい正座入門学
シリーズ番号:29

著者  :そうな
イラスト:あんやす

本文

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やさしい正座入門学

第29話 季節の変わり目に「正座療法」を

 日本の季節はうつろう。それは、四季を通して風情や旬を楽しめるということ。だが同時に、四季があるということは、自立神経が乱れやすい時期がその節ごとにあるということも意味する。
 そういってしまうと風情も何もあったもんじゃないが、人生の中で何回かこんな言葉を耳にしたことがあると思う。「季節の変わり目には体調を崩しやすい」と。つまり、体が次の季節に対応しようとしてバランスを崩し、ひき起こされる具合の悪さの中には、自律神経に支障をきたすことが理由で起こるものが多々あるのだ。
おいといください、季節の節目

 とはいえ、いったいどんな季節に自律神経は乱れるのだろうか? ネットの世界を泳ぎ回って調べてみると、さまざまな人たちの声が上がっていた。発信元が確認できる大手製薬会社や医師などの声をザックリ集めてみると、このようになった。
「春は気圧も大きく変化するため、体調不良を生じやすいシーズン。」「暑い夏に自律神経が乱れやすくなるのはなぜなのでしょう。」「秋は寒暖差が大きいだけでなく、台風や低気圧などで気圧も上下しやすく、自律神経が乱れやすい季節。」「冬バテは寒暖差による自律神経の乱れを原因とする。」
 お気づきだろうか、これでは全ての季節が声を上げている状態ではないか。これだけ並んでいたら間違い探しでもしたくなってくるが、どれかが違うというワケでもなく、どうやら春夏秋冬、全ての季節が当てはまってしまったようだ。

 声の中には、「夏バテ」ならぬ「冬バテ」という聞きなれない言葉もいくつか出てきた。「冬バテ」とは見なれない言葉ではあるが、大体「夏バテ」と同じような状態だ。涼しいスーパーと暑い屋外の出入りを繰り返している内に具合が悪くなってくるという不調は、多くの人が夏の商業施設などで体験したことがあるだろう。これが夏に自律神経を崩した状態「夏バテ」であるが、「冬バテ」もこの寒暖差が主な原因で起こるのだという。冬は室内の暖房によって屋外との気温差が生じやすい上に、日照時間の短さや寒さによる血管の収縮、年末の忙しさなどが相まって自律神経を壊しやすいのだそうだ。温度変化に敏感な我々人間を思うと、季節と体調は、切っても切れぬ密接な関係なのだと感じる。

 さて、こと日本においては、四季と呼ばれるだけあって、年に4回も季節の変わり目がある。かといって、「あ~、また今年も自立神経を4回ほど壊さにゃならんのか。」などと絶望する必要はない。要は、自律神経を壊さないように生活をすれば良いのであって、その生活は十分に可能なのだ。なんなら、今日からでもできるものなのである。

 まず、自律神経とはなんなのかというところを軽くおさらいしていこう。(以下は、整然とまとめられていた神戸市の笹岡整骨院様のホームページより抜粋させてもらうことにする。抜粋しなかった部分も多いので、より学びたい方は直接ホームページを検索されると良いだろう。)
 「自律神経とは、全身に分布している神経です。呼吸、血管、胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、性器、肺、瞳孔、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺など、内臓やそれ以外の様々な機能を、本人の意志とは関係なく支配しています。」これが自律神経の説明だ。
 また、雑誌の特集や医療系のネット記事でも自律神経の記事を読んでみたところ、大体次のようなことが書いてあった。自律神経は、不安や緊張といった精神的なストレスが引き金で乱れやすい。継続的なストレス状態が続くことによって、交感神経(たかぶり)と副交感神経(おちつき)のスイッチを上手く切りかえることができず、交感神経が高ぶったままとなり、結果不調が続く原因にもなるとのことだ。
 つまり、自律神経とは人間の体内の多くの機能と関係があり、かつ本人の努力とは別の問題(外的要因や不可抗力など)が要因であることが多く、かつ自身で簡単に調整できるものではないからこそ、何か対策を講じる必要があると分かる。

 対策を練るためには、原因を探らなければならない。自律神経が乱れる原因は何なのだろうか? 笹岡整骨院様のホームページによると、自律神経失調症の原因の多くは、①ストレスがたまる、②気温差、③睡眠不足の3つだという。
 筆者自身、身に覚えのあることばかりだ。なにせ、これを題材に上げるだけあって自律神経万年壊しっぱなしの人間だからである。こと①については厄介なもので、まず原因が目には見えない。そして、いろんな風邪や病気に似た症状は出るが、その原因が特定できないことばかりで、実に山に向かって叫びたいほどのフラストレーションを溜めることもしばしば。そのままの生活を続けていくと、ストレスで心身症や病気を引き起こし、またそれがストレスになるという負のスパイラルのできあがりである。
 こんなときは心療内科へも行くべきなのだろうが、一般的な病院のみへ行ってしまい、混沌としたやりとりをしたことは度々あった。自信に満ちあふれていた医者の顔はしだいにくもり、しまいには「結局このストレスの原因はなんなんですか!」「ストレスを感じないでください!」と泣かれたことは数知れず(まさに、それをいっちゃあおしまいよ、という状況ばかりだ)。そんなとき、筆者が返す言葉は決まって、「それが分かっていたら、私はここには来ていないのです……」の途方に暮れた一言のみである。
自律神経に振り回される医者と筆者 と、色々書いてはみたものの、ストレスについての話題は非常に難しく、ここで語りきれるものでもないだろう。考え方も、感じ方も、十人十色。それこそ体質が要因であることもあれば、環境が要因なこともあるのだ。一人として同じ人間がいない世界で同じように生きようとするからこそ、生じる不調もあるのだろう。

 ③の睡眠不足についても、ストレスと密接な関係はあると感じている。それ以外にも、昨今取りざたされているスマホやPCのブルーライトの刺激、睡眠環境そのものの問題、その他体調などの色んな状況が作り出す不調でもある。

 ストレスも、気温差も、睡眠不足も、一筋縄ではいかない原因・要因があるからこそ、自律神経を整えるには、まず自身の生活習慣を見直すことが一番の近道だ。整えるのは、起床から食事、軽い運動、就寝までのリズムである。
 とはいっても、今のご時世何かと忙しく、猫の手も借りたいことばかりだ。思うようにいかない状況が続くことは少なくないだろう。そう楽々こなせない日もあるだろう。そんなとき、お手軽にできる安定方法が、なんと『正座』だ。

 先ほどご紹介した笹岡整骨院様のHPに、面白い記事を見つけたのだ。そこには、自律神経を整えるのに効果的なのは『正座療法』であると記載されていた。なんと、読者の皆様、『正座療法』である。『療法』とつくだけで正座に別の貫禄が出てくるから不思議だ。ここまで正座を研究してきたが、正座そのものが治療法と呼ばれていることを確認したのは、これが初めてだった。
さて、この正座療法には、大切な点がある。それは、必ず「就寝前」に行うということだ。院長がいうには、「正座する前には、一日の業務をすべて終えておくのが望ましい。」とのことだった。日中では気を休めようとしても、「この後あれをして、これをして……あ! まだやっていないことがあった!」など、集中も何もあったものではない事態が度々起こる。そういった考えごとや悩みごと、心配ごとなどが山積みの状態で瞑想をしても、深く集中を得にくいことは、想像に難くない。
 それが、一日の終わり、特にもう寝る前となると、「どうあがいたって、もうみんな寝ているものな。」と、急く感情にも諦めがつく傾向にあるというものだ。こう書いている自分が良い例だが、筆者自身、寝る前にあれこれ考えてしまう性格なので、この「諦めの境地」というものはとても大事だと感じている。「もう~、寝たる! あとはなーんも知らんぞ!」と、すべてを放棄する勢いで思考を停止をしてみると、案外上手くいくことが多い。大事なのは、『思考の放棄』である。止めることは難しいので、手放すのだ。ぜひお試しあれ。

 さて、さっそく『正座療法』の行い方を見ていこう。
「正座して心を静めて吐く息を一つ、二つと数えていく。10まで数え終わったら、また一つから始めていきます。不思議なことに、呼吸が少しずつ深くなりそして外のせわしさ忙しさが気にならなくなってきます。いわゆる不動の心が養われてくるのです。」
正座療法の行い方 院長が言うには、これは『数息観(すそくかん)』と呼ばれるれっきとした行法なのだそうだ。調べてみると、臨済宗大本山円覚寺様のHPが検索にかかった。そこには、こんなことが記されていた。『仏教辞典』に「調息(ちょうそく:端座して呼吸を正しくととのえること)」の項があること、「<数息観(すそくかん)><随息観(ずいそくかん)>など、天台宗でも禅宗でも、調息のためのさまざまな工夫が伝えられている」ことなどだ。
 つまり、この数を数えるという行動は、宗教の観点からも有効だと判を押されているのだ。数の数え方にもいろいろあり、「出息を数える」、「入息を数える」、「出入息を別々に数える」、「出入息を一つとして数える」、「一息で複数数える」など、さまざまな方法があるという。なるほど、羊を数えるのも理にかなっていたということである。昨今では、「シープ」という発音でないと眠気を誘わないといわれる文を度々目にするが、ただ数えるだけでも理にかなっているようで、昔からの伝聞に信ぴょう性があったことに一人安堵した筆者であった。

 そして、さらにありがたい情報があるのだ。笹岡整骨院様のHPにはこう記載されていた。「正座しながら、目をつむり呼吸する息を数えるだけで自律神経が安定するだけでなく、肩こりや頭痛、不眠が改善されるというおまけつきなのです。しかも、一切の薬が不要なので内臓に負担をかけることがありません。外出せずに自宅でできることも大きなメリットです。」
毎日のちょっとした時間を使って、薬をのまずに健康を目指そう!

 外出せず、一切の薬を使わず、しかもほぼ無料で出来てしまう方法なら他にもあるようだ。この正座療法に加えて、自律神経を整える方法を同時に行ってみてはいかがだろうか? 例えば、ゆっくり湯船につかったり、窓辺で猫になったつもりで日光浴をしてみたりなどだ。この二つは、筆者自身が医者にアドバイスされたこともあれば、健康雑誌やTVなどでも度々紹介されている月並みな方法だが、それだけ自律神経を整えることに役立つということなのだろう。(効果を数値で表したことはないが、筆者も肩こりや倦怠感の緩和を実感しているオススメの方法だ)
 また、人間の一番広い面積をもつ臓器は腸だといわれている。腸内環境が悪化すると、その情報が脳に伝わって自律神経が乱れやすいなんて話も聞くくらいだ。健康や免疫力は腸内環境の影響が強いともいわれているので、積極的に善玉菌を増やす食べ物を取り入れてみてもいいだろう。
 日々できる範囲で他方面からアプローチし、夜には正座療法でぐっすり眠りにつくなんて素晴らしい暮らしではないか。どうやら、日々ちょっとした行動を取り入れることで、自律神経の乱れに対抗することができるようだ。季節の節目に限らず、これが日常的にできたらどんなにいいだろうか……と、筆者は理想をかかげ、一人うなづくのであった。

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