[162]第3回 スペース削減?


発行日:2013/08/17
タイトル:第3回 スペース削減?
シリーズ名:とりあえず座れ
シリーズ番号:3

分類:電子書籍
販売形式:ダウンロード販売
ファイル形式:pdf
販売価格:100円

著者:かねしろさく
イラスト:林 加奈子

販売サイト
https://seiza.booth.pm/items/3131601

本文

 ワンルームの狭さは実際住んでみないとわからないものだ。実家にいた頃はダイニングテーブルで食事をし、足を伸ばせる広い風呂に入っていたが。一人で生活しはじめた今はちゃぶ台とユニットバス。スペース削減のために正座。一人暮らしをはじめてから、あまり足を伸ばさなくなった。
 ……なんだか切ない話になってしまった。それでも私にとっては待望の一人暮らしである。好きなときに寝て好きな物を食べて好きな時間に出かけられる自由な生活だ。
 なによりうれしかったのは、私だけのキッチンスペースがあること。私は料理が好きなのだ。下手な横好きというやつかもしれないけど。実家の台所では、包丁を持っているあいだずっと心配性な母がそばをうろついていたりして、なかなか気兼ねすることが多かったのだ。だけど一人ならどんな失敗作も冷やかされないし、遠慮なく超激辛のトムヤムクンを作れるし(私はかなりの辛党だ)、ダイエットメニューばかり食べても叱られない。自由というのはすばらしい。たとえコンロがひとつだけでも、シンクが実家のそれの半分のサイズでも、おそろしく狭くても!
 まぁ、学生時代の貧乏アパートなんて、いかにも青春じゃないか。不便はあるがやはり楽しさのほうが勝つ。
 私はいつも基本的に和食を作る。洋食も好きだが高いバターを買ってまで作りたいとは思えない貧乏性だ。というより、母に教わった料理のほとんどが和食だったので、レパートリーの問題だ。肉じゃが、炊き込みご飯、筑前煮、親子丼、豚の生姜焼き、けんちん汁など。メジャーな家庭料理はだいたい作れるようになった。
 たくさん料理を作るときはキッチンスペースだけでは収まりきらない。野菜の皮むきや材料の下ごしらえは居間でやる。それは暖房のきいた居間にいたいという事情もあるが。
 料理は好きだが片付けは苦手なので狭い部屋はさらに狭い。スペース削減のために縮こまっていたが、このコラムを書くようになってからは、背筋を伸ばして正座をしている。
 料理はほとんど毎日作るので、毎日少しずつでも背筋をしゃんとする機会があるのはいいことだと思う。あわよくば猫背の癖が直るといいな、と思いつつ。それにせっかくの和食とちゃぶ台の日本的な生活だし、あぐらなんかよりは正座のほうがサマになるだろう。
 料理屋のお座敷や法事など、難なく正座できるのが望ましい場面は多々ある。美しい生活と美しい立ち振る舞い。自活をきっかけにきちんとした所在の綺麗な大人になれたらいいなと思っている。

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