[228]正座先生ギャラクシーと正座講習本番



タイトル:正座先生ギャラクシーと正座講習本番
発行日:2022/06/01

分類:電子書籍
販売形式:ダウンロード販売
ファイル形式:pdf
ページ数:44
定価:200円+税

著者:眞宮 悠里
イラスト:鬼倉 みのり

内容
 星が丘市に暮らす平凡な中学生・キョウカは、宇宙人のミライに正座を教える『正座先生・ギャラクシー』として活動中。
 そんな二人は、正座を教えてくれている先輩・マフユの勧めで、星が丘市民スクールで行われる『正座講習』のお手伝いをすることに。
 外国人でありながら正座に造詣の深い講師・コゼットとともに、正座初心者さんや外国人さん向けに講習を行う!
 果たして、二人はこれまでの成果を発揮できるのか?
 地球人と宇宙人、二人で一から正座を学ぶ、新しい『正座先生』シリーズ、第7弾です!

販売サイト
https://seiza.booth.pm/items/3906806



本文

当作品を発行所から承諾を得ずに、無断で複写、複製することは禁止しています。


 正座について本格的に学ぶ決意をしたので、今後は、どんどん外へ出ていって活動したい。
 具体的には、外へ出ることで正座に関する見聞を広げ、その過程で、正座の技術を上げていきたい。
 そう願っていたわたし『サワタリ キョウカ』の思いは届き、今回ご縁があって『正座講習』という、正座を学ぶための市民スクールに参加することになった。
 ……というと、みなさんはきっと『そうか。キョウカは、正座をもっと学ぶために、生徒として正座講習に参加したのだろう。独学で勉強することに、限界を感じていただろうな』と、お思いになることだろう。
 しかしわたしに舞い込んだお話は、生徒としての参加ではない。
 わたしはなんと、先生として『正座講習』に招かれているのだ!
 ……というと、みなさんは、今度はきっと『なるほど。キョウカは『もっと学びたい』と謙遜してはいるけれど、すでに先生クラスの知識と技術の持ち主だったのだな。だから正座講習にも、先生として呼ばれたのだろう』と、お思いになることだろう。
 でも、それは違う。
 謙遜でもなんでもなく、わたしは『正座初心者さん』である。
 知識の面においても、技術の面においても、もちろん経験の面においても、とても『先生』を名乗れるような存在ではないのだ。
 具体的には、わたしは星が丘市にある星が丘中学校に通う、一年生。つまりはただの学生だ。
 その上、学校で茶道部や剣道部などの『正座を必要とする部活動』に所属しているということもない。
 『それでは、個人的に正座を勉強していたのか?』と言うと、それも違う。
 わたしが正座をするようになった……いや、正確には『意識して正座をし、正座のよさや、正座を長く続ける方法について学ぶようになった』のは、ほんの最近。今年の秋からである。
 それも、自分のために学び始めたわけではない。わたしは、宇宙から正座を学ぶために地球にやってきた『ミライ』さんという方の先生になるために、正座を勉強し始めたのだ。
 ……というと、みなさんはきっと『やっとわかったぞ! キョウカは、ミライさんに教える練習をするために、具体的には『先生役』を経験させてもらうために、正座講習でも先生役に回ることになったんだ。多分それは、主宰者のご厚意か何かなのだろうな。となると、ミライさんはきっと正座講習には『生徒役』として受講しに来るに違いない!』と、お思いになられることだろう。
 でも、ごめんなさい。それも少し違うのだ。
 一部は正解だけれど、実際はもう少し複雑なのだ!
 まず、わたしが『先生役』として参加することになったのは、主宰者さんのご厚意で間違いない。
 次に、ミライさんもまた、この正座講習には参加する。
 だから、ここまでは正解だ。
 だけど、ミライさんも『先生側』で参加する。つまりわたしたち二人は『正座初心者さん』でありながら、二人とも先生役を務めることになったのだ!
 そんな正座講習会は、果たしてどんな感じで進行したのかというと……。
 さぁ、ここからそれを見ていきましょう。
 どうぞ、見守っていてくださいね!


「キョウカさん、ミライさん。
 本日の『正座講習』の『正座先生・補佐』としての準備はできましたかしら?」
「…………!」

 十一月のある日、『正座講習』がいよいよ始まる直前。
 わたしとミライさんは、講習の主宰者である大学生『コゼット・ベルナール』さんに、そんな質問をされていた。

「で、できています……!」
「私もできておりますよ。コゼット先生……!」

 なのでわたしたちは、自信がないなりに己を奮い立たせて、大きく頷く。
 ちなみに最初にお返事したのがわたしで、次にお返事をしたのがミライさんだ。
 そう。わたしたち二人は今回先生役として参加するけれど、それはあくまで主宰のコゼットさんの補助。『正座先生・補佐』としての参加なのである。
 そもそも、わたしたちとコゼットさんは、まだ知り合ったばかり。一緒に何かをするのは、今回の『正座講習』が初めてなのだ。
 そんなわたしたち三人は、普段わたしとミライさんに正座を教えてくれている『ヤスミネ マフユ』さんという方のご紹介で先日知り合った。
 マフユさんは星が丘高校茶道部の部員で、コゼットさんの後輩にあたる。
 マフユさんはかねてから『キョウカとミライが、正座をもっと勉強できる場所はないだろうか?』と探してくれていた。そこで、コゼットさんの存在に行き当たったというわけだ。
 だからマフユさんは、先日わたしとミライさんを、コゼットさんに会わせてくれたのである。
 しかし、話しはここで終わらない。
 わたしたちの話を聞いたコゼットさんは『ただ教わるだけの生徒役として参加するよりも、補助としての役目でもいいから、先生役として参加してみないか?』と提案してくれたのだ。 
 そのとき、コゼットさんはこうおっしゃった。

〝正座を学ぶだけでしたら、マフユさんたち星が丘高校のみなさまと学ぶだけで、十分実力は伸ばせます。
 無理にほかのスクールに通う必要はございません。
 だけど、わたくしが見るに、お二人は今、もっと見聞を広げてみたいと思ってらっしゃるわよね。
 であれば『正座講習』はその候補として最適であると、わたくしは考えております。
 だからこそ、お誘いしております。
 ぜひともわたくしと一緒に、初めての方々と一緒に正座を学びませんこと?〟

 と。
 つまりわたしとミライさんは今回の『正座講習』において、補助役として貢献しながら、自分の見聞を広めることが、目的だ。
 立候補したからには補助役として役に立つのは当然だし、だからと言って、補助の仕事に終始するだけでは、今回紹介したり、受け入れたりしてくださったマフユさんとコゼットさんに申し訳ない。
 わたしとミライさんは今日、『正座講習』が行われるこの星が丘市民スクールで、新しい何かを獲得しなければならないのだ。
 しかし、わたしはともかく、ミライさんは確実に見聞を広められることだろう。
 何せ、ミライさんは宇宙人だ。
 地球のことを、まだ全然知らない状態にある。
 当初、ミライさんは『市民スクール』というものが『その都市に住んでいる人を対象に行っている、小規模な学校のことである』ということも知らなかった。
 だから、今回の経験は、ミライさんがより地球を知り、なじんでいくきっかけになってほしい。いや、確実になるはずだ! とわたしは捉えている。
 もちろんそうなるためには、まずは『正座講習』を確実に成功させる必要があるのだけれど……。

「では、参りましょうか。生徒のみなさまは、もうお待ちですわよ」
「はい!」

 こうしてとうとう、本番がやってくる。
 わたしとミライさんは、コゼットさんの後ろについていく形で、いよいよ控室を後にし、教室へと向かった。


「みなさま、こんにちは! 今日はお集まりいただき、誠にありがとうございます!」

 そして始まった『正座講習』は、コゼットさんのこんなお言葉で始まった。
 コゼットさんは、今年大学一年生となった方だ。
 つまり、講師としては非常にお若い。
 だけど非常に手馴れていて、余裕がある。
 これが、高校時代も星が丘高校茶道部で『正座先生』として、様々なイベントを企画・運営してきたことの賜物なのだろう
 ところで、すっかりお伝えしそびれていたけれど、コゼットさんは日本の方ではない。
 フランスの方である。
 コゼットさんは高校一年生の冬に、双子のお姉さん『ジゼル・ベルナール』さんを追いかける形で日本……つまり星が丘高校に留学し、今に至るのだという。
 そのジゼルさんは今はフランスに帰国されてしまった。
 けれど、留学期間中にすっかり日本文化を好きになったコゼットさんは、卒業後も日本に残り、日本の大学に進学する道を選ぶことにした。
 そして『日本語がうますぎる、日本文化に詳しすぎるフランス人女子大学生』として、この『正座講習』を始められたのだ。
 そんなコゼットさんが講師を務めていたのは、実は八月、九月、十月の三か月間。
 つまり、コゼットさんの講習は、すでに一度終了しているのだ。
 だけど、非常に好評だったということで、十一月に、一度限りのアンコール開催が決まったのである。
 それが、今日だ。
 しかし、今回受講されているのは、そのときの生徒さんたちではない。
 コゼットさんは前回講習で『満足のいく正座ができなかった!』と感じている方以外には声をかけていない。基本的に、再受講はしてもらっていないのである。
 要するに……本日集まったのは、最初の受講者のみなさんから評判を聞きつけて集まってきた方々だ。
 今日の受講者のみなさんは、きっと期待している。
 『ここでなら、きっとよい正座の仕方が身に着けられる』と、きっと思っている。
 要するに、初回講習よりもハードルが上がっている。
 頑張らなくては!
 ところで、今日の『正座講習』は、実はひそかにマフユさんが見守ってくれている。
 マフユさんは、今回の正式な受講者ではない。
 しかし、今回教室として用意していただいた、靴を脱いで上がる多目的ルームは、非常に広い。
 だから、市民スクール側としても『関係者が、一人増える程度なら問題ない』とのことで、マフユさんは特別関係者枠として、部屋の隅でわたしたちを見守ってくれているのだった。
 ということで……今回紹介してくれたマフユさんのためにも、がんばるぞ!

「まず……今回のご参加者様には、生まれて初めて正座にチャレンジする方もいらっしゃると思いますわ。
 では、そんな『正座初心者さん』がもっとも気になることとは何かしら。キョウカさん?」
「はいっ!」

 早速話を振られた!
 事前に打ち合わせ済みのこととはいえ、どきっとする。
 だけど、もちろん何と答えるかは決まっている。
 わたしは、心臓をバクバクさせながら答えた。

「それは『正座をすることで、すぐに足がしびれてしまうことではないか?』ということです。
 足がしびれてしまうと、なんだか嫌な感覚に襲われてとても辛いですし、しびれた部分はしばらく自由に動かせなくなるので、困りますよね。
 また、しびれへの不安は、正座への苦手意識につながってしまうことでしょう。
 なので、今日はまず最初に、その『しびれ対策』をしておきましょう。
 ……だってみなさんも、しびれは怖いですよね?」
「はいっ! 私は、怖いです!」

 わたしの質問に、ミライさんが手を上げて答える。
 今回の台本はコゼットさんが昔、フランスで『正座講習』を行ったときの台本がベースだ。具体的には、それをさらにアレンジしたものを使用している。
 コゼットさんは、高校生だったときにはすでに正座を広めるために活動していた。
 その一つが、地元で、フランス人相手に正座を教える『正座講習』だったというわけだ。
 その講習も、今回と同じ一回きりのものだったらしい。
 だから、今回の『正座講習』は、それをもとにパワーアップしたものだと言っていいだろう。
 当然、ここに集まっている人もほとんどが『はじめまして』の相手だ。
 そんな中、こちらから質問をしても、思うような反応がないことは十分に考えられる。受講者さんたちも緊張しているからだ。
 なので、まずはわたしたちからその緊張をほぐせるような働きかけをして行く。それが肝要である。というのがコゼットさんの考えだった。

「アハハハハ! 先生も怖いのデスカー! ハーイ! 僕も怖いデース!」

 そこで、外国人受講者さんの一人がアハハと笑い、自分も手を上げてくれる。
 それにならい、彼の周りからもパラパラと手が上がった。
 すると、そこから輪が広がるように、さらに手が上がる。
 最終的には、ほとんど全員が手を上げる状態となった。
 このように、ミライさんがビシッ! と元気に手を上げて、その上素直に『怖いです!』と言ったことによって、場の雰囲気が和んだようだ。
 そう。自発的に来て下さっている以上、参加者のみなさんは、本当は積極的にわたしたちと会話をしたいはずだ。
 だからわたしたちは、そのきっかけになりそうな行動をする。それが大切なのである。
 と、この盛り上がりを見て、コゼットさんがわたしたちにウインクする。
 『次の説明を始めてよい』という合図だ。

「それでは『しびれ』について改めてご説明しますね。
 まず、身体のしびれというものは、その部位が圧迫され、血の巡りが悪くなることで起きます。
 圧迫されている状態は、身体にとってよいものではありません。
 だから、身体の方から『今、よくない姿勢になってしまっていますよ! 正してください!』とサインを送ってくれているんです。
 では、しびれてしまうようなよくない姿勢にならないようにするためには、どうしたらいいでしょうか? ミライさん」
「はい!
 まず最初に、座るときに、お尻を後ろに突き出すような姿勢してみましょう。
 お尻と太ももの境目を、かかとの上に乗せるイメージです。
 キョウカさん、コゼットさん。実際にやってみてください」
「はーい!」
「承知しましたわ」

 このように、『正座講習』の進行は、わたしとミライさんが交互に行っていく。
 隣のコゼットさんと、向こうで座っているマフユさんに見守ってもらい、うまくお話ができなかったり、進行があやしくなってしまったりしたときは、コゼットさんにそっと軌道修正してもらうのだ。
 『正座先生・補佐』と言えど、やることはたくさんあるのである。
 それにしても、ミライさんに『キョウカさん』と呼ばれるのはなんだか新鮮だ。

「今、キョウカさんとコゼットさんがしているように、お尻を後ろに突き出すようにすることを意識すると、腰がしっかりと立ちます。
 いかがですか? キョウカさん」
「えーっと。背中がなんだかまっすぐになれている感じがします。
 また、姿勢が良くなって、呼吸もしやすくなっているように感じます」

 そういえば、フランスでの『正座講習』には、星が丘高校茶道部の『ムカイ オトハ』さんと『カツラギ シノ』さんも参加されていたそうだ。
 ふたりは事前に簡単なフランス語を覚えてから臨んだらしい。
 いくら『簡単な』とはいっても、それは大変な努力だったことだろう。
 それなら、すべて日本語でよいわたしたちは、オトハさんたちよりもずっと楽なはずだ。
 初めてで緊張するけど……何とか完璧にこなして見せよう!

「しびれを避ける座り方は、他にもあります。
 それは、まず、膝を少し開いておくことです。
 みなさんは『ぴったり閉じてしまった方が綺麗な姿勢なのではないか?』と感じるかもしれません。
 でも、実は少し開いておいた方が、足はしびれにくくなるのです。
 次に、身体の重心は、どこかに偏らないようにしましょう。
 たとえばかかとに重心をかけるように座ると、そこがしびれやすくなってしまいます」

 するとここで、みなさんの疑問を代表するかのように、コゼットさんが手をあげた。
 もちろん、これは台本通りの進行だ。

「お二人とも、ご説明ありがとうございますわ。
 でも……それでもしびれてしまうこともあるのではなくて?
 ミライさん。そんなときは、どうしたらいいのかしら」

 だから、安心だと思っていたのだけど……。

「えーっと……ですねぇ……」

 あっ! 回答役のミライさんがピンチだ!
 でも、ミライさんは今回の台本を、自分のセリフ以外まで、完全に暗記していたはずだ。
 つまり、ミライさんは準備をサボっていたから、今ピンチに陥っているわけではない。
 そう……ミライさんは、とても緊張しやすい方なのだ。
 そのせいできっと、台本の内容が、頭から飛んで行ってしまったのだろう!
 ミライさんの緊張は、ほとんど毎回発生してしまう。
 マフユさんや、星が丘高校茶道部のみなさんと知り合ったときも、すぐにはうまく話せなかった。少し会話をするだけで、どもってしまっていたくらいなのである。
 だから、今日は、どもらずに話せているだけでも調子が良かったのだけど……。そろそろ緊張がピークに達してしまったようだ。
 そして、この事態にはコゼットさんも気づいたようだ。
 コゼットさんは一瞬こちらに目配せをして、それは『わたくしが代わりにお話ししましょうか?』と言っているように見えたけど……大丈夫だ!
 わたしは、ミライさんが話すべきだったポイントのことも、ちゃんと覚えている!

「はい! ここはわたしが答えたいです!
 そんなときは、まずは足の指を組みかえてみましょう。
 それから、足の指を立てて、かかとの上にお尻を乗せた状態にしてみるのもいいです。
 ずっと同じ姿勢でいると、次第にしびれやすくなってきます。
 それは仕方のないことなのです。
 だから、できるだけしびれることなく同じ姿勢を続けるためには、同じようでいて、少しずつ違う姿勢にしていくことがよいです。
 そうすることで、血流悪化を防ぐのが……長く正座をするコツなのです!」
「完璧ですわ! キョウカさん!
 それでは、わたくしからもう一つだけ。
 正座をするとき、スカートをはいていた場合は、スカートは必ずお尻の下に敷きましょうね。
 スカートが広がった状態で正座をすると見栄えが悪いですし、スカートのすそを誰かが踏んてしまって、転倒事故が起きる可能性もあります。
 今は男性でも、いつスカートをはく機会があるかわかりませんわ。だから、男性のみなさんも『自分には関係ない』とは考えず、きちんと覚えておいてくださいましね」
「ハッハッハ! ハイ! 男性のボクもちゃんと覚えておきマース!」
「よろしい。ではみなさん、これでしびれに関する知識を得ましたから、安心ですわね?
 わたくしたちと一緒に、正座をしてみましょう!」

 よし! これでなんとか、最初の説明は終われそうだ!

「あっ、あっ! 最後にもう一つ、ご説明させて下さい!」

 と、わたしとコゼットさんがホッと胸をなでおろしていると……。
 ここで突如ミライさんが手をあげた。
 おや? まだ何か、説明をし忘れていることってあったっけ?

「も、もし万が一しびれてしまったときは、どうかお気になさらないで下さい。
 そ、そんなことも、ときにはございます。
 さきほどキョウカさんが説明してくれた通り、しびれは、正座にはつきものなのです。
 なので……。今、私たちが説明した『しびれないい方法』を実践してもうまく行かず、どうしてもしびれてしまったときは、すぐに足を崩して、休んでください。
 そして『また正座をしてみたい』と思ったときは正座をするのがよいですし『自分には向いていないようだ』と思ったときは、しばらく正座から離れてしまっても構いません。
 正座は、誰かに強要されてやるものではないからです。
 あくまで自分から『正しい姿勢でいよう』『正しい姿勢でいることで、敬意を表したり、自分の身体によいことをしたりしよう』と考え、その結果正座を選択した。ということが大切なのです。
 だから、しびれてしまっても決して落ち込まず『やっぱりしびれてしまうものなのだなあ』くらいに考えて、気楽な気持ちでいて下さいね!」
「まぁ! キョウカさんの完璧な説明に、ミライさんの完璧な補足ですわね!
 みなさん、これで安心できましたか?」
「イエーイ! 三人のお陰で、わかってきたヨー!」
「ワタシモワカリマシター!」

 コゼットさんの言葉に、受講者のみなさんが元気に反応してくれる。
 よかった。わたしたちでも、ちゃんと『正座先生・補佐』として役に立てたようだ!
 わたしとミライさんはニッコリと顔を見合わせると、次の話題に移る。
 いよいよ、具体的な正座の方法について話すときがきたのだ!

「それではみなさん、しびれに気を付けながら、さっそく、一緒に楽しく正座してみましょう!
 では、ミライさん、よろしくお願いします!」
「は、はい!
 それではまず、基本的なことからおさらいしていきましょう。
 ご存知の通り、正座とは、座り方の一つです。
 もっと詳しく言うと『床に座っている』ときの座り方の一つが、正座です。
 つまり、椅子やソファーに座っているときは、正座はしません。
 では、具体的にはどんな座り方なのかというと……キョウカ! お願いします」
「承知しました!
 正座は、このような形の座り方です。
 まず、膝から足の甲までを床につけます。
 それから、膝を曲げて、かかとの上にお尻を乗せます。
 この座り方が、正座です」
「ちなみに、両足の裏だけを床につけた状態ですと、別の姿勢になります。
 これは『しゃがむ』という姿勢になります。
 正座との大きな違いは『膝から下を曲げてはいるけれど、お尻を床には着けていない。代わりに、足の裏が床についている』ことです」

 これは、星が丘高校茶道部で配布している『正座マニュアル』からの引用だ。
 わたしたちの正座は、ここから始まった。
 だから今日も、この『基本』を大切にしながら正座を教えていこうと思っている。

「オーウ? ということは、日本の座り方には、正座に似ているようで、実は違うものがたくさんあるということかい?」
「そうです! 『立て膝』と『膝立ち』いうものもあります。
 『立て膝』は、片方の膝から下全体は床にくっつけてみる。
 もう片方の膝から下は、曲がったままにしておく。
 でも、もう片方の膝は床にはくっついていなくて、足の裏だけが床についている。
 そんな状態を呼びます。
 この『立て膝』には『片膝立ち』という呼び方もありますが、これは、二つとも座り方としては同じです。
 それからさらに『立て膝』から膝から足の甲までの全体を、ぺたんと床につけると……。
 これが、『膝立ち』です!
 そして、この『膝立ち』の状態から、ついに『正座』となりますよ。
 『膝立ち』のままお尻をおろして……。
 かかとの上に、太ももの裏側が乗るような感じにすると!」
「はい! これが『正座』です!」
「おおー! ワカリマシタヨー!」

 あらかじめ『正座に似た座り方もある』ということを伝え、その『似た座り方』から『正座』になっていく過程を伝えたのがよかったらしい。
 参加者のみなさんは、あえて『立て膝』と『膝立ち』を経由して『正座』になり、初めて自分が、座り方の違いを理解した上で正座をしたことに感動してくれているようだ。
 そうだ。こうやって順番に知識を付けて、一つずつ理解していくから、学ぶことは楽しいのだ。
 いきなり『はい、これが正座です』という教え方もある。たとえば時間がない場合は、そのやり方が正しいこともあるのかもしれない。
 だけど、今は時間がある。
 だからわたしは、一つの知識を、他の知識と結びつけながら覚え、理解していくことで世界が広がるということを知ってもらいたい。
 たとえば『正座で人生が変わった』というほど間での大きな影響を与えられることは、なかなかないかもしれないけど……。
 正座を通じて、勉強の仕方や、知識の組み合わせ方。
 ひいては、正座をきっかけに他のことにチャレンジするきっかけができたらいいなと思うのだ。

「それではみなさん、先に教えた『しびれないコツ』を踏まえた上で正座してみましょう!
 もちろん、無理は禁物。ご自分が楽しく正座できる範囲で、ぜひ正座にトライしてみてください!」
「ハーイ!」

 広い教室に、受講者のみなさんの元気な声がこだまする。
 見守り役のマフユさんも、これにはニッコリだ。
 もちろん、講師とその補助役のわたしたち三人も笑顔になって……。
 『正座講習』は無事に進行していくのだった。


あわせて読みたい